建設業のクラウド会計導入ガイド:工事別原価管理を効率化する方法
建設業会計の特殊性、クラウド会計ツールの選定ポイント、工事別原価管理の実現方法、BPOとの連携を解説します。
この記事のポイント
- 建設業会計は完成工事高・未成工事支出金など特有の勘定科目を使用する
- クラウド会計選定では工事台帳機能・4区分原価管理・経審対応出力が要件
- 工事マスタの設計と仕訳入力時の工事番号付与ルール化が運用の基盤
- BPOとの連携で日常仕訳入力から決算補助まで経理業務を効率化できる
建設業の経理業務は、工事ごとの原価管理や特有の勘定科目など、他業種にはない複雑さがあります。クラウド会計ツールの導入で業務効率化を図る企業が増えていますが、建設業の特殊性を理解したうえで選定しなければ、かえって手間が増えることにもなりかねません。本記事では、建設業会計の基本的な特徴を整理し、クラウド会計の選定ポイントと工事別原価管理の実現方法を解説します。
建設業会計の特殊性
建設業の会計処理は、一般企業の会計処理とは異なる独自の勘定科目や収益認識基準を用います。クラウド会計を選定する前に、建設業会計の特殊性を理解しておく必要があります。
建設業特有の勘定科目
建設業では、一般企業でいう「売上高」「売上原価」「仕掛品」に相当する勘定科目が異なります。
- 完成工事高(一般企業の売上高に相当):完成・引渡しが済んだ工事の請負金額
- 完成工事原価(一般企業の売上原価に相当):完成した工事にかかった原価。材料費・労務費・外注費・経費の4要素で構成
- 未成工事支出金(一般企業の仕掛品に相当):未完成の工事にかかった支出。工事完成時に完成工事原価へ振り替え
- 未成工事受入金(一般企業の前受金に相当):工事完成前に受領した代金
これらの勘定科目を正しく処理できることが、建設業向け会計ツールの最低条件です。
収益認識基準
建設業の収益認識は、2021年4月から適用された「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)に基づき、原則として工事の進捗に応じて収益を認識する方法(インプット法またはアウトプット法)を採用します。
工事の進捗度の見積りが合理的にできない場合は、原価回収基準(発生したコストの範囲で収益を認識)を適用します。また、工期がごく短い工事については、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識する方法(従来の工事完成基準に近い処理)も認められています。
注意
工事別原価管理の重要性
建設業の原価管理は工事ごとに行うのが基本です。工事別に材料費・労務費・外注費・経費を集計し、予算と実績を対比することで、工事ごとの採算を把握できます。
工事別原価管理が適切にできていないと、以下の問題が生じます。
- 赤字工事の発見が遅れ、全体の利益を圧迫する
- 経営事項審査(経審)に必要な工事経歴書の作成が困難になる
- 実行予算と実績の乖離の原因分析ができない
- 入札時の積算精度が低下する(見積・積算の基本も参照)
クラウド会計ツールの選定ポイント
建設業向けにクラウド会計ツールを選定する際は、一般的な会計機能に加えて建設業固有の要件を満たしているかを確認する必要があります。
建設業特有の要件
一般的な選定基準
建設業固有の要件に加え、以下の一般的な観点も比較検討します。
- 他システムとの連携:銀行口座の自動連携、請求書発行システム、給与計算ソフトとのデータ連携が可能か
- 操作性:経理担当者が日常的に使うツールのため、画面の見やすさと操作のしやすさは重要
- モバイル対応:現場から経費精算や出金の承認ができるか
- 税制改正への対応:インボイス制度への対応、電子帳簿保存法への対応が済んでいるか
- サポート体制:建設業の会計処理に詳しいサポートスタッフがいるか
ポイント
導入コストと運用コスト
クラウド会計ツールの費用は、月額利用料のほかに初期導入費用、データ移行費用、カスタマイズ費用を考慮する必要があります。
- 月額利用料:ユーザー数や機能プランによって月額数千円〜数万円
- 初期導入費用:勘定科目の設定、過去データの移行、銀行口座連携の設定など
- 運用コスト:操作研修、日常的なサポート費用
投資回収を判断するには、現在の手作業や既存ソフトの運用にかかっている工数・コストとの比較が必要です。見積・積算業務の効率化と合わせてクラウド会計を導入することで、受注から原価管理までの一貫した業務改善が期待できます。
工事別原価管理をクラウドで実現する方法
クラウド会計ツールで工事別原価管理を実現するには、工事マスタの設計、日々の仕訳入力のルール化、月次での進捗管理の仕組みを整備します。
工事マスタの設計
すべての原価を正しい工事に紐づけるための基盤が工事マスタです。以下の項目を設定します。
- 工事番号(工事コード):社内で一意に識別できる番号体系を定める
- 工事名:正式な工事名称
- 発注者名:元請の場合は施主名、下請の場合は元請名
- 工期:着工日と完了予定日
- 請負金額:契約金額
- 実行予算:材料費・労務費・外注費・経費の予算内訳
日々の仕訳入力ルール
原価を工事ごとに集計するために、仕訳入力時に必ず工事番号を付与するルールを徹底します。
- 材料の仕入れ:仕入伝票に工事番号を付与。複数工事で使用する材料は按分基準を事前に定める
- 外注費:外注先からの請求書に基づき、工事番号ごとに計上
- 労務費:作業日報に基づき、工事ごとの労務費を集計。自社社員の労務費は作業時間で按分
- 現場経費:仮設費、機械賃借料、水道光熱費等を工事番号に紐づけ
注意
月次の工事別収支確認
毎月、工事ごとの収支状況を確認するルーチンを設けます。確認すべきポイントは以下のとおりです。
BPOとの連携による経理業務の効率化
クラウド会計の導入により業務効率化が見込めますが、すべてを自社で運用するには経理人材の確保と教育が必要です。BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)と組み合わせることで、より効果的な業務改善が可能になります。
BPOに委託できる経理業務の範囲
建設業の経理業務のうち、以下のような業務はBPOに適しています。
- 日常仕訳の入力:請求書・領収書のデータ化と仕訳入力
- 工事別原価の集計:月次での工事台帳の更新と原価集計
- 支払管理:下請業者への支払スケジュール管理と振込データ作成
- 経費精算:現場経費の精算処理
- 決算補助:未成工事支出金の振替処理、完成工事原価報告書の作成
工事別の原価管理の詳細については「工事原価管理の基本」も参照してください。
BPO連携のメリット
クラウド会計とBPOを組み合わせることで、以下のメリットが得られます。
- 経理人材の採用難を解消:建設業会計に精通した経理人材は限られており、BPOにより人材不足を補完
- 属人化の防止:特定の担当者に依存しない体制を構築
- コスト最適化:正社員の経理担当を雇用するよりも変動費化でき、コストの見通しが立ちやすい
- 本業への集中:経営者や現場監督が経理作業に時間を取られなくなる
ポイント
建設業の経理業務は、工事別原価管理という固有の複雑さを抱えています。クラウド会計の導入だけで解決できない部分は、BPOサービスとの組み合わせが有効です。当社では、建設業会計に対応した記帳代行から工事台帳の管理まで、経理業務全般を支援しています。BPOサービスの詳細は「建設業BPOの導入ガイド」をご覧ください。