建設業の見積作成:積算の基本と効率化のコツ
建設業の見積・積算の基本プロセス、歩掛の考え方、諸経費率、法定福利費の計上方法、見積業務の効率化を解説します。
この記事のポイント
- 積算は数量拾い→単価設定→経費算定の3ステップで工事費用を積み上げる
- 歩掛(ぶがかり)は作業に必要な労務量を数値化したもので労務費算出の基本
- 諸経費率は共通仮設費・現場管理費・一般管理費の3層で構成される
- 法定福利費は労務費の約16〜17%を見積書に内訳明示することが求められる
建設業の見積作成は、工事の受注可否と利益を左右する重要な業務です。しかし、積算の基礎知識がないまま見積書を作成すると、赤字工事や不当な安値受注につながるリスクがあります。本記事では、積算の基本プロセスから歩掛の考え方、諸経費・法定福利費の適正な計上方法、見積業務の効率化まで解説します。
積算の基本プロセス
建設業における積算とは、工事に必要な費用を項目ごとに算出し、積み上げていく作業です。見積金額の根拠となるため、正確性と網羅性が求められます。
積算の3ステップ
積算は大きく分けて以下の3つのステップで進めます。
ステップ1:数量拾い(数量積算)
設計図面や仕様書から、工事に必要な材料の数量や作業の規模を算出します。「数量拾い」とも呼ばれ、積算の中で最も時間がかかる作業です。
- コンクリートの打設量(m³)
- 鉄筋の使用量(t)
- 型枠の面積(m²)
- 土工事の掘削量(m³)
- 配管の延長(m)
数量拾いの精度が見積全体の精度を決めるため、図面の読み込みと確認は慎重に行う必要があります。
ステップ2:単価設定
拾い出した数量に対して、材料費・労務費・機械経費の単価を設定します。
- 材料単価:建設物価調査会が発行する『建設物価』や『積算資料』などの刊行物が参考になる。メーカーからの見積りや過去の実績単価も活用する
- 労務単価:国土交通省が毎年公表する「公共工事設計労務単価」が基準。職種ごと・地域ごとに単価が異なる
- 機械経費:建設機械の運転費用。リース料や燃料費、オペレーター費用などを含む
ステップ3:経費算定
直接工事費(材料費+労務費+機械経費)に加えて、間接的にかかる経費を算定します。
- 共通仮設費(仮設事務所、仮設トイレ、安全設備など)
- 現場管理費(現場監督の人件費、通信費、交通費など)
- 一般管理費(本社経費の按分、利益など)
ポイント
歩掛の考え方
歩掛(ぶがかり)とは、ある作業を行うために必要な労力(人工)を数値化したものです。建設業の積算において、労務費を算出するための基本的な考え方です。
歩掛とは
たとえば「型枠組立」の歩掛が「10m²あたり1人工」であれば、100m²の型枠を組み立てるには10人工の労務費が必要という計算になります。
- 人工(にんく):1人の作業員が1日(8時間)で行う作業量を「1人工」と呼ぶ
- 歩掛の数値:作業量あたりの必要人工数。数値が大きいほど手間のかかる作業
歩掛の出典
歩掛の数値は、主に以下のソースから入手できます。
- 国土交通省「土木工事標準積算基準書」:公共土木工事の積算に使用される公的な歩掛。毎年改定される
- 各自治体の積算基準:地方公共団体が独自に定める歩掛
- 自社の実績データ:過去の施工実績から算出した実歩掛。現場の実態に最も近い数値
歩掛を活用する際の注意点
- 公的な歩掛は「標準的な施工条件」を前提としているため、現場条件が特殊な場合は補正が必要
- 狭小地での作業、高所作業、夜間作業などは、標準歩掛に割増係数を適用する
- 自社の実績歩掛を蓄積していくと、より精度の高い見積が可能になる
注意
諸経費率の考え方
直接工事費に加えて、諸経費を適切に計上することが健全な見積作成の要です。
工事原価の構成
建設工事の原価は、以下の構造で積み上げられます。
工事価格
├── 工事原価
│ ├── 直接工事費(材料費+労務費+直接経費)
│ ├── 共通仮設費
│ └── 現場管理費
└── 一般管理費等(会社経費+利益)
各経費の率の目安
諸経費の算出方法には「率計算」と「積み上げ計算」があります。公共工事では国土交通省が定める経費率を使用しますが、民間工事では各社の実態に応じた率を設定します。
- 共通仮設費率:直接工事費の3〜5%程度が目安(工事規模・種別により変動)
- 現場管理費率:純工事費(直接工事費+共通仮設費)の15〜30%程度(同上)
- 一般管理費等率:工事原価の10〜20%程度(同上)
これらの率はあくまで目安であり、工事の規模、種別、地域、工期によって大きく変動します。特に小規模工事では諸経費率が高くなる傾向があります。
ポイント
法定福利費の計上方法
2013年以降、国土交通省は建設業の見積書に法定福利費を内訳明示するよう求めています。法定福利費の適正な計上は、下請企業の社会保険加入を促進し、技能者の処遇改善につなげるための重要な取り組みです。
法定福利費とは
法定福利費は、事業主が法令に基づいて負担する以下の社会保険料等です。
- 健康保険料(事業主負担分)
- 厚生年金保険料(事業主負担分)
- 雇用保険料(事業主負担分)
- 介護保険料(事業主負担分、40歳以上の被保険者がいる場合)
- 子ども・子育て拠出金
見積書への記載方法
国土交通省は、法定福利費を見積書に内訳として明示することを推奨しています。具体的には、以下のいずれかの方法で記載します。
方法1:労務費に保険料率を乗じる方法
見積書の労務費の合計に、各保険の事業主負担率を乗じて法定福利費を算出します。
法定福利費 = 労務費 × 法定保険料率(事業主負担分の合計)
事業主負担の保険料率は年度によって変動しますが、おおむね16〜17%前後が目安です(健康保険、厚生年金、雇用保険、子ども・子育て拠出金の事業主負担分合計)。
方法2:個別に積算する方法
対象となる作業員ごとに、実際の給与をもとに保険料を個別に算出する方法です。精度は高いですが、計算の手間がかかります。
注意
見積書の構成と作成のポイント
見積書のフォーマットは会社によって異なりますが、建設業の見積書に盛り込むべき基本的な構成要素を紹介します。
見積書の基本構成
- 表紙:宛先、工事名、見積金額(税抜・税込)、見積有効期限、提出者情報
- 内訳書:工種別の金額内訳(材料費、労務費、経費の区分)
- 数量明細:各工種の数量・単位・単価・金額の詳細
- 別紙(必要に応じて):法定福利費の内訳明示、特記事項、施工条件
見積書作成のポイント
- 漏れなく拾う:数量拾いの段階で項目の漏れがないか、チェックリストで確認する
- 根拠を残す:単価設定の根拠(見積書、カタログ、公的単価など)を整理しておく
- 条件を明記する:見積前提条件(施工範囲、責任範囲、除外事項)を見積書に明記する
- リスクを織り込む:不確定要素がある場合は、条件付き金額として提示する
見積業務の効率化とBPO活用
見積・積算業務は専門性が高く、熟練した担当者でも1件あたり数日を要することがあります。複数の案件が重なると、本来集中すべき施工管理や営業活動に支障をきたします。
効率化の手段
- 積算ソフトの導入:数量拾いや単価設定を支援するソフトウェアを活用する。手計算と比べてスピードと正確性が向上する
- 過去実績のデータベース化:過去の見積データを蓄積し、類似工事の見積に活用する。一から積算する手間が省ける。BPOサービスにデータ整理を委託し、データベースの構築を加速させる方法もある
- テンプレートの整備:工種別の見積テンプレートを準備しておき、案件ごとに数量と単価を更新する運用にする
BPOサービスの活用
数量拾いや見積書の作成は、正確性が求められる一方で定型的な側面もあります。建設業の積算に精通したBPOサービスを活用することで、自社の技術者が現場管理や施工計画に専念できる体制を構築できます。特に繁忙期に案件が集中する場合は、外部リソースの活用が有効です。工事原価管理の基本についてもあわせてご確認ください。