建設業法改正2025|標準労務費と原価割れ禁止の実務対応
2025年12月施行の改正建設業法を解説。標準労務費の勧告制度・原価割れ契約の禁止・工期ダンピング対策の要点と、元請・下請が今すぐ取り組むべき準備チェックリストを掲載。
この記事のポイント
- 改正建設業法は2025年12月に標準労務費・原価割れ禁止を含む主要規定が全面施行
- 標準労務費は中央建設業審議会が工種別に勧告し著しく下回る契約は規制対象
- 原価割れ契約の禁止は元請→下請だけでなく下請→孫請の取引にも適用される
- 工期ダンピングの禁止も実効性が強化された
- 準備チェックリスト:自社見積の労務費確認・契約書式の改訂・下請への周知が必要
2024年6月に公布された改正建設業法(令和6年法律第49号)の主要規定が、2025年12月12日に全面施行されました。標準労務費の勧告制度、原価割れ契約の禁止強化、工期ダンピング対策、技術者配置の合理化など、建設業の取引慣行を根本から見直す大規模な制度改正です。
本記事では、改正法の全体像と各規定の実務的な影響を詳しく解説し、元請・下請・孫請それぞれの立場で準備すべきことをチェックリストにまとめます。改正の背景と3本柱の概要は「建設業法等の改正ポイント」で解説していますので、あわせてご参照ください。
2025年施行の建設業法改正とは
施行スケジュールの全体像
改正建設業法は段階的に施行されています。以下に時系列で整理します。
| 施行日 | 主な内容 |
|---|---|
| 2024年9月1日 | 第1弾施行:一部規定の先行適用 |
| 2024年12月13日 | 第2弾施行:資材価格転嫁の円滑化、契約書記載事項の強化 |
| 2025年12月12日 | 第3弾施行(全面施行):標準労務費の勧告制度、原価割れ禁止の強化、技術者配置要件の合理化 |
| 公布から4年以内 | 一部の経過措置が必要な規定 |
本記事で解説する標準労務費の勧告制度や原価割れ禁止の強化は、2025年12月の第3弾施行に含まれる規定です。2026年2月現在、すでに全面施行済みであり、すべての建設企業が対応を求められています。
なぜ今回の改正が重要なのか
今回の改正が特に重要である理由は、建設業の「取引構造」そのものにメスを入れている点にあります。
2024年4月から適用された時間外労働の上限規制は、労働時間の上限を法的に定めるものでした。しかし、労働時間を減らしても、不当に低い労務費で契約させられる構造が変わらなければ、技能労働者の処遇改善にはつながりません。
今回の改正は、標準労務費の設定と原価割れ禁止の強化によって、「適正な対価が支払われる取引環境」を制度的に整備しようとするものです。
標準労務費の勧告制度
標準労務費の仕組み
標準労務費とは、中央建設業審議会が工事の種類ごとに作成・勧告する「適正な労務費の基準」です。建設技能労働者の賃金水準を底上げし、不当な低価格競争を防止することを目的としています。
標準労務費の位置づけ:
- 法的拘束力のある「最低基準」ではなく、「あるべき水準」を示す勧告
- ただし、標準労務費を著しく下回る契約は規制の対象となる
- 工種(躯体、仕上げ、設備等)ごとに設定される
勧告の流れ
標準労務費が実際の取引に反映されるまでの流れは以下のとおりです。
- 中央建設業審議会が標準労務費を作成・勧告:国土交通省に設置された中央建設業審議会が、公共工事設計労務単価等のデータを基に工種別の標準労務費を策定する
- 標準労務費の公表:策定された標準労務費が公表される
- 元請・下請の取引に反映:元請業者は見積り・契約時に標準労務費を参照する
- 違反の監視・勧告:著しく下回る契約が確認された場合、国土交通大臣または都道府県知事が勧告を行う
「著しく下回る」とはどの程度か
「著しく下回る」の具体的な基準は、今後の運用指針で明確化される見込みですが、以下の考え方が示されています。
- 標準労務費の額そのものではなく、取引の個別事情を総合的に判断する
- 合理的な理由なく標準労務費から大幅に乖離している場合が該当する
- 技能労働者の経験年数や地域差は考慮される
注意
受注者側への規制(双方規制)
標準労務費の規制で特に注目すべきは、受注者側(下請業者)にも規制がかかるという点です。
| 規制の対象 | 禁止される行為 |
|---|---|
| 発注者側(元請) | 標準労務費を著しく下回る労務費での契約を締結すること |
| 受注者側(下請) | 標準労務費を著しく下回る見積りを提出すること |
従来の下請保護法制では、発注者側(元請)の不当な値下げ要求を規制する構造でしたが、今回の改正では、受注者側が自ら低い見積りを出すことも禁止されます。これは、受注競争のなかで「安値受注」によって自社の技能労働者の賃金を犠牲にする行為を防止するためです。
ポイント
原価割れ契約の禁止強化
改正前後の変更点
建設業法第19条の3(不当に低い請負代金の禁止)が改正により大幅に強化されました。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 要件 | 「自己の取引上の地位を不当に利用して」が必要 | 取引上の地位の不当利用の要件が見直され、より広い範囲で規制 |
| 対象 | 主に元請→下請の取引 | 元請→下請だけでなく下請→孫請の取引にも適用を明確化 |
| 原価の考え方 | 「通常必要と認められる原価」に満たない代金の禁止 | 同左(原価に含まれる項目の解釈が明確化) |
| 実効性 | 要件の立証が困難で実効性に課題 | 勧告・公表のプロセスが整備され実効性が向上 |
「通常必要と認められる原価」の考え方
原価割れ禁止における「原価」には、以下の項目が含まれます。
- 直接工事費:労務費、材料費、機械経費
- 共通仮設費:仮設建物、安全対策費等
- 現場管理費:現場監督の人件費、通信費等
- 一般管理費:本社経費の配賦分
- 法定福利費:社会保険料の事業主負担分
注意
違反した場合の処分
原価割れ禁止に違反した場合の処分は以下のとおりです。
- 勧告:国土交通大臣または都道府県知事から勧告を受ける
- 企業名の公表:勧告に従わない場合、企業名が公表される
- 経営事項審査への影響:法令違反の事実は経審のW点に影響し得る
- 公共工事の入札評価への影響:総合評価落札方式等で不利に働く可能性がある
刑事罰こそ規定されていませんが、企業名公表は取引先からの信用失墜や公共工事の受注機会の減少に直結するため、実質的な営業ペナルティとして大きな影響があります。
工期ダンピングの禁止と適正工期の確保
禁止される行為
改正法では、著しく短い工期での契約(工期ダンピング)の禁止がさらに強化されました。建設業法第19条の5に基づき、以下の行為が禁止されています。
- 通常の工期と比べて著しく短い工期を設定すること
- 工期の変更に伴う費用を受注者に不当に負担させること
- 合理的な理由なく受注者からの工期変更の申出を拒否すること
工期基準の実効性強化
中央建設業審議会が策定する「工期に関する基準」の実効性が強化されました。具体的には、以下の点が明確化されています。
- 週休2日(4週8閉所)を前提とした工期設定が標準となる
- 天候不順による作業不能日を考慮した余裕工期の確保
- 資材の調達期間、各種届出の手続き期間を織り込んだ工期算定
2024年問題との関連
工期ダンピングの禁止は、建設業の2024年問題と密接に関連しています。時間外労働の上限規制により、「残業で工期を詰める」ことができなくなったため、適正な工期の確保がこれまで以上に重要になっています。
無理な短工期を受け入れてしまうと、上限規制を守れずに法令違反となるか、人員を大幅に増やしてコスト超過となるかの二者択一を迫られます。36協定の上限を超えないためにも、契約段階で適正な工期を確保することが不可欠です。
ポイント
資材価格変動への対応規定
契約変更の円滑化
改正法では、資材価格が著しく変動した場合の請負代金変更について、誠実な協議義務が明確化されました。
改正のポイント:
- 元請が下請からの価格変更の協議の申出を正当な理由なく拒否してはならない
- 協議にあたっては誠実に応じる義務がある
- 一方的に不利な条件を押し付けることは建設業法違反となる
スライド条項の活用
資材価格変動への対応として、契約書にスライド条項(物価変動に応じた代金調整の条項)を盛り込むことが推奨されています。
スライド条項には以下の3種類があります。
| 種類 | 内容 | 適用場面 |
|---|---|---|
| 全体スライド | 工事全体の価格変動を対象 | 長期工事で物価が大幅に変動した場合 |
| 単品スライド | 特定の資材の価格変動を対象 | 鋼材・木材など特定資材が急騰した場合 |
| インフレスライド | 急激なインフレに対応 | 物価指数が一定以上変動した場合 |
ポイント
技術者配置の合理化
監理技術者の兼任緩和
改正法では、技術者不足に対応するため、監理技術者の専任要件が合理化されました。
主な緩和内容:
- ICT(遠隔臨場等)を活用して適切な施工管理が行える場合、監理技術者が複数の現場を兼任できる要件が緩和
- 監理技術者の専任を求める請負代金額の下限が引き上げ
- 特定専門工事における主任技術者の配置義務の特例が拡大
ICT遠隔管理の活用
監理技術者の兼任が認められるためには、ICTを活用した遠隔管理の体制が前提となります。具体的には以下の環境整備が必要です。
- 現場のカメラ映像をリアルタイムで確認できる通信環境
- 施工記録のデジタル化と遠隔での閲覧・確認
- 緊急時に一定時間内に現場に到着できる体制
建設業DXの導入ガイドも参考に、遠隔管理に必要なICT環境の整備を検討してください。
技術者不足への対応策
技術者配置の合理化は、深刻な人手不足に対する制度面からの対応策です。ただし、技術者の負担が過度に増えないよう、事務作業の効率化や外部委託との組み合わせが重要です。
技術者が兼任する現場数が増えると、その分だけ書類作成や安全書類の管理の負担も増加します。BPOサービスを活用して事務作業を外部委託することで、技術者が施工管理の本業に集中できる環境を整えることが求められます。
下請・孫請への影響と対応
見積書の見直し
改正法の施行により、下請業者は見積書の記載内容を見直す必要があります。
見積書で対応すべきポイント:
- 労務費の明示:標準労務費を参照し、適正な労務費を見積書に明記する
- 法定福利費の別枠表示:法定福利費を内訳として明示する(「法定福利費込み」の一括表示は避ける)
- **見積りの基本**に立ち返り、直接工事費・共通仮設費・現場管理費・一般管理費の内訳を整理する
注意
孫請取引への規制適用
今回の改正で特に重要なのは、原価割れ禁止の規制が下請→孫請の取引にも適用されることが明確化された点です。
従来、元請→下請の取引についてはある程度の監視が行われていましたが、下請→孫請の取引は「下請企業間の問題」として規制が及びにくい面がありました。改正後は、下請業者が孫請業者に対して不当に低い代金で発注することも、同様に規制の対象となります。
下請法・独占禁止法との関係も整理しておくと、取引全体のコンプライアンス体制がより強固になります。
契約書式の改訂
改正法に対応するため、以下の契約書式の改訂が必要です。
- 請負契約書:労務費の内訳明示、スライド条項の追加、工期変更条項の見直し
- 見積書テンプレート:標準労務費との整合を確認できる書式への改訂
- 注文書・注文請書:法定福利費の明示欄の追加
- 下請契約約款:電子契約への対応を含めた全面見直し
自社が準備すべきことチェックリスト
改正法への対応状況を確認するために、以下のチェックリストを活用してください。
ポイント
まとめ:改正法を「適正取引」の追い風に
2025年12月に全面施行された改正建設業法は、建設業の取引構造を適正化するための大きな一歩です。本記事の要点を整理します。
- 標準労務費の勧告制度により、技能労働者への適正な賃金支払いが制度的に担保される
- 原価割れ禁止は元請→下請だけでなく下請→孫請の取引にも適用される
- 受注者側が自ら低い見積りを出すことも禁止される双方規制が特徴
- 工期ダンピングの禁止が強化され、2024年問題の工期面での対応が後押しされる
- 技術者配置の合理化で人手不足への制度面の対応が進む
改正法への対応は、見積書の改訂、契約書式の見直し、社内研修の実施など、多くの事務作業を伴います。本業の施工管理に集中しながらこれらの対応を進めるには、事務作業の一部を外部に委託することも有効な選択肢です。
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