建設業の電子契約ガイド:建設業法19条3項の要件から導入手順まで
建設業の請負契約を電子化するための法的根拠(建設業法19条3項)、電子契約の3要件、主要サービス比較、導入手順、電子帳簿保存法との関係、元請下請間の注意点を網羅的に解説します。
この記事のポイント
- 建設業法19条3項により請負契約の電子締結が法的に認められている
- 電子契約には本人性確認・非改ざん性・見読性の3要件を満たす必要がある
- 2020年施行規則改正で立会人型電子署名も活用可能になり導入ハードルが低下
- 電子帳簿保存法により電子契約データの電子保存が2024年1月から完全義務化
- 下請企業への電子契約の強制は不可で、相手方の事前承諾が必須
建設業では請負契約の書面化が建設業法で義務づけられていますが、近年は電子契約による契約締結が急速に普及しています。建設業法第19条第3項は、一定の要件を満たす場合に書面に代えて電磁的方法による契約を認めており、2020年10月の施行規則改正で技術的要件が明確化されたことを契機に導入が進んでいます。
本記事では、建設業における電子契約の法的根拠、3要件、主要サービスの比較、導入手順、電子帳簿保存法との関係、元請下請間の注意点を解説します。
建設業の電子契約に関する法的根拠
建設業における電子契約の法的根拠は、建設業法第19条第3項に規定されています。この条文の位置づけと経緯を正確に理解しておくことが、適正な電子契約の運用の前提となります。
建設業法第19条の構造
建設業法第19条は、建設工事の請負契約に関する書面化義務を定めた条文です。全体の構造は以下のとおりです。
- 第1項:請負契約の当事者は、法定の事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない
- 第2項:契約内容の変更があった場合も、変更内容を書面に記載し交付しなければならない
- 第3項:第1項および第2項の規定にかかわらず、建設工事の請負契約の当事者は、書面による契約に代えて、情報通信の技術を利用する方法により契約を締結することができる
第3項が電子契約の根拠条文であり、2001年の建設業法改正で追加されました。この改正により、建設業の請負契約においても紙の契約書に代わる電子的方法が法的に認められることとなりました。
施行規則改正による要件の明確化
2020年10月1日施行の建設業法施行規則改正(令和2年国土交通省令第69号)により、電子契約に用いる技術的基準が具体的に定められました。改正前は電子署名法第2条に定める電子署名が必要とされていましたが、改正後は技術的基準がより柔軟に規定され、実務上の導入ハードルが大きく下がりました。
ポイント
関連する法令
建設業の電子契約に関連する主な法令は以下のとおりです。
- 建設業法(昭和24年法律第100号):請負契約の書面化義務と電子契約の根拠規定
- 建設業法施行規則(昭和24年建設省令第14号):電子契約の技術的基準
- 電子署名法:電子署名の法的効力
- 電子帳簿保存法(電帳法):電子取引データの保存義務
電子契約の3要件
建設業法施行規則に基づき、建設業の請負契約を電子契約で締結するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。これらは契約の法的有効性を担保するための技術的基準です。
要件1:本人性の確認(電子署名)
契約当事者が本人であることを確認できる措置が必要です。電子署名を付与することで、契約書が当事者本人の意思に基づいて作成されたことを証明します。電子署名には大きく2つの方式があります。
- 当事者型:契約当事者自身が認証局から電子証明書の発行を受け、自ら電子署名を行う方式。本人性の証明力が高いが、双方が電子証明書を取得する必要がある
- 立会人型(事業者署名型):電子契約サービス事業者が本人確認を行い、事業者のシステム上で署名を行う方式。メール認証等により本人確認を行う。導入が容易で建設業界での利用が広がっている
注意
要件2:非改ざん性の確保
契約書の内容が契約締結後に改ざんされていないことを証明できる仕組みが必要です。以下の技術的手段が用いられます。
- タイムスタンプ:契約書に時刻情報を付与し、その時点で文書が存在していたこと、及びその後改ざんされていないことを証明する
- 電子署名のハッシュ値:電子署名に含まれるハッシュ値により、文書内容の一致性を検証できる
- 改ざん検知機能:電子契約サービスが提供する改ざん検知機能により、文書の完全性を担保する
タイムスタンプは、総務大臣が認定する「認定タイムスタンプ」の利用が推奨されます。認定タイムスタンプは電子帳簿保存法の保存要件としても認められており、法令対応を一貫して行えるメリットがあります。
要件3:見読性の確保
電子契約の内容を、必要に応じていつでも画面上に表示し、紙に印刷できる状態を維持する必要があります。
- 契約書の内容をディスプレイ等に速やかに表示できること
- 契約書の内容を紙に印刷できること
- 契約の相手方も同様に表示・印刷できること
見読性の確保は電子データの長期保存と密接に関わります。利用する電子契約サービスのデータ保存期間やサービス終了時のデータ移行方法も事前に確認しておきましょう。
主要な電子契約サービスの比較
建設業で利用されている主要な電子契約サービスについて、特徴と建設業での活用に関するポイントを整理します。
クラウドサイン
弁護士ドットコム株式会社が提供する国内シェアの高い電子契約サービスです。立会人型(事業者署名型)を採用しており、相手方のアカウント登録が不要で、メールアドレスのみで署名依頼を送信できます。建設業を含む幅広い業種で導入実績があり、認定タイムスタンプにも対応しています。
DocuSign
米国発の世界最大手の電子署名サービスです。グローバルでの導入実績が豊富で、多言語対応やAPIによるシステム連携に強みがあります。既存の基幹システムとの連携を重視する企業に適しています。
電子印鑑GMOサイン
GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社が提供するサービスです。当事者型と立会人型の両方に対応しており、契約金額や重要度に応じて署名方式を使い分けられます。認定タイムスタンプ標準対応で、電帳法への対応も考慮されています。
サービス選定のポイント
建設業で電子契約サービスを選定する際は、以下の観点から比較検討することが重要です。
| 選定ポイント | 確認内容 |
|---|---|
| 建設業法への対応 | 電子署名・タイムスタンプ・見読性の3要件を満たしているか |
| 契約書テンプレート | 建設業法第19条第1項の法定16項目に対応したテンプレートがあるか |
| 相手方の負担 | 下請企業がアカウント登録不要で署名できるか |
| 保存期間 | 建設業法上の帳簿保存義務(5年間)に対応できるか |
| 電帳法対応 | 認定タイムスタンプ・検索機能等の電帳法要件を満たしているか |
| 既存システム連携 | 自社の工事管理システムや会計ソフトとの連携が可能か |
| 料金体系 | 月額基本料・送信件数あたりの料金・オプション費用 |
ポイント
電子契約の導入手順
建設業で電子契約を導入する際の具体的な手順を解説します。段階的に進めることでスムーズな移行が可能です。
ステップ1:現状の契約業務の棚卸し
まず、自社の契約業務の現状を把握します。
- 年間の請負契約(新規・変更)の件数
- 契約書の作成・押印・郵送にかかっている時間とコスト
- 契約先(元請・下請)の数とICTリテラシーの状況
- 現在使用している契約書のテンプレート(法定16項目の網羅状況)
ステップ2:電子契約サービスの選定
前述のサービス比較を参考に、自社の規模・取引形態に適したサービスを選定します。多くのサービスでは無料トライアルが用意されているため、実際に操作性を確認してから決定することを推奨します。
ステップ3:社内ルールの策定
電子契約の運用に関する社内ルールを策定します。具体的には以下の項目を定めます。
- 電子契約の適用範囲(全契約に適用するか、一定金額以上の契約に限定するか等)
- 承認フロー(誰が契約書を作成し、誰が承認し、誰が送信するか)
- 相手方の承諾取得手順と記録方法
- 電子契約データの管理・保存ルール(電帳法対応を含む)
ステップ4:取引先への説明と承諾取得
建設業法第19条第3項では、電子契約を利用するには相手方の承諾が必要とされています。取引先に対して以下の内容を説明し、承諾を取得します。
- 電子契約の法的有効性と建設業法上の根拠
- 利用するサービスの概要と操作方法
- 相手方に発生する費用負担の有無
- 紙の契約を希望する場合の対応方針
注意
ステップ5:試行運用と本格導入
まずは一部の取引先や少額の契約で試行運用を行い、問題点を洗い出してから本格導入に移行します。試行期間中に確認すべき事項は以下のとおりです。
- 契約書の作成から署名完了までの所要時間
- 相手方からの問い合わせ内容と対応策
- 法定16項目の記載に漏れがないか
- 電帳法の保存要件を満たしているか
電子帳簿保存法との関係
電子契約で締結した契約書は、電子帳簿保存法(電帳法)の規制対象となります。建設業で電子契約を導入する際は、建設業法の要件だけでなく、電帳法の保存要件も満たす必要があります。
電子取引データ保存の義務化
2024年1月から、電子的に授受した取引書類の電子保存が全事業者に完全義務化されました。電子契約で締結した契約書データは「電子取引」に該当するため、以下の要件に従って電子データのまま保存しなければなりません。
改ざん防止措置(以下のいずれか):
- タイムスタンプが付された後に授受する
- 授受後、速やかにタイムスタンプを付与する
- 訂正・削除の履歴が残るシステム、または訂正・削除ができないシステムで保存する
- 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を策定し運用する
検索要件:
- 取引年月日、取引金額、取引先で検索できること
- 日付・金額の範囲指定での検索ができること
- 複数の条件を組み合わせた検索ができること
注意
建設業法上の保存期間との整合
建設業法では、営業に関する帳簿を5年間保存する義務が定められています(建設業法第40条の3、施行規則第28条)。電子契約のデータも、少なくともこの期間は確実に保存できる体制を整える必要があります。
また、法人税法上は7年間の保存義務があり、欠損金が生じた事業年度については10年間の保存が必要です。建設業法と税法の両方を満たすためには、最低でも7年間、場合によっては10年間の保存を想定した運用が求められます。
電帳法や書類の保存期間について詳しくは「建設業の書類保存期間一覧」および「建設業の安全書類を電子化する方法」でも解説しています。
電子契約サービスと電帳法対応の関係
多くの電子契約サービスは、認定タイムスタンプの付与や検索機能を標準で備えており、サービスを利用すること自体が電帳法の保存要件を満たす場合が多いです。ただし、サービスの保存期間が自社の必要保存期間を満たしているか、解約時にデータをエクスポートして保存要件を維持できるかは個別に確認が必要です。
元請・下請間の電子契約で注意すべきポイント
建設業は多層的な下請構造が特徴であり、電子契約の導入にあたっては元請・下請間特有の留意点があります。
相手方の承諾に関する留意点
建設業法第19条第3項は、電子契約の利用に相手方の承諾を求めています。以下の点に注意が必要です。
- 電子契約への移行は相手方の自由な意思に基づく承諾が前提であり、取引上の地位を利用して強制することはできない
- 承諾しないことを理由に不利益な取扱いをすることは、建設業法の適正取引の観点から問題となる可能性がある
- 個人事業主や小規模事業者の中にはICT環境が整っていない事業者もあるため、紙と電子の併用を一定期間認めることが実務的には望ましい
変更契約への対応
建設工事では、設計変更や追加工事により当初契約の変更が頻繁に発生します。建設業法第19条第2項に基づく変更契約も、電子的方法で締結する場合は同様の3要件を満たす必要があります。
変更契約を迅速に締結できることは、電子契約の大きなメリットです。紙の契約書では作成・押印・郵送に数日から数週間かかることもありますが、電子契約であれば当日中に変更契約を完了させることも可能です。
約款との整合性
自社の契約約款に電子契約の利用に関する条項が含まれているか確認が必要です。約款に「書面を交付する」と規定されている場合でも、建設業法第19条第3項の要件を満たす電子的方法は有効ですが、約款を更新して電子契約対応の文言を追加しておくことが望ましいです。
再下請負通知との関連
元請から一次下請への発注を電子契約で行う場合、一次下請から二次下請への再下請負通知の手続きにも影響が及びます。施工体制台帳への記載方法も含め、電子化を視野に入れた運用を検討しましょう。
ポイント
まとめ
建設業における電子契約は、建設業法第19条第3項に法的根拠があり、本人性の確認(電子署名)、非改ざん性の確保(タイムスタンプ等)、見読性の確保の3要件を満たすことで、書面による契約と同等の法的効力を持ちます。2020年10月の施行規則改正で技術的要件が明確化され、導入のハードルは大きく下がっています。
導入にあたっては、建設業法の要件に加え、2024年1月に完全義務化された電子帳簿保存法の電子取引データ保存義務にも対応が必要です。電子契約サービスの多くは認定タイムスタンプや検索機能を備えており、適切なサービスを選定すれば両方の法令要件を効率的に満たせます。
建設業特有の多層的な下請構造を踏まえ、相手方の承諾取得、変更契約への対応、約款の見直しなど実務上の留意点を押さえ、段階的に導入を進めることが重要です。電子契約の導入は単なるペーパーレス化にとどまらず、契約手続きの迅速化、保管コストの削減、法令遵守体制の強化につながります。契約書の作成・管理に課題を感じている場合は、建設業に特化したBPOサービスを活用して、導入支援から運用代行までを効率化することも選択肢のひとつです。